以前(2002年頃)にエンジンをオーバーホールした時の記録です。それから一度もエンジンを開けていませんが、4万km以上走破した現在も異音・白煙等も無く絶好調です。予算の関係もあってこの時の内容が必ずしもベストとは言えませんが、この内容を基に今後のオーバーホール又はチューニング計画に少しでも役立てて頂ければ幸いです。ちなみにエンジンは管理人が組んだのではなく、ショップ社長のお手伝いという形で関わらせて貰い大変勉強になりました。


エンジンの分解
 エンジンの分解は再使用する部品もある為、各気筒別に箱に整理して保管する。この時点で再使用する部品は洗浄し必要部品のリストアップを行う。
燃焼室
 洗浄後の燃焼室、カーボンが付着している状態では確認出来ないが、プラグホールからシートリングにかけてヒートクラックが入っている。Z系エンジンは2,3番が熱的に苦しいようでクラックが入っているのも珍しくない。


ポート加工
 エアーリューターを使用しインテーク側はインシュレーターに、エキゾースト側はエキパイに合わせて段付修正を行う。ポート内部は大きく形状を変えずに滑らかに仕上げるように心掛ける。
鏡面加工
 インテークポートは張り付きが生じるるので鏡面加工を施さないのが一般的だが、今回は使用するキャブレターがMJNなので霧化が良いとの判断で鏡面加工とした。エキゾーストポートも当然鏡面加工を行う。


クランク及びミッション
 クランクシャフトは芯出しを行い組み付ける。カムチェーンは強化品に交換。ミッションは再使用するがベアリングのみ新品に交換する。キックシャフトは撤去しAPE製のキックシャフトオフカバーを装着する。
クラッチハウジング
 ノーマルのクラッチハウジング、Z系ではここもトラブルが発生しているものが多い。ガタが出ているものやスプリングが割れているものが見受けられる。写真のハウジングも太い方のスプリング3個が見事に砕けてしまっている。


腰下の組立て
 クラッチハウジングはAPEのキットでリビルドしたりするが、今回はファルコン社製のアルミ削り出し品を使用した。腰下は組む前にネジ山を確認しておかないと、液体ガスケット塗っていざボルトを締めたらネジ山が潰れている場合がある。
ピストン
 ピストンはワイセコ社製の73φを使用した。これで排気量は1,105 cc 圧縮比10.25:1となる。ノーマルのスタッドボルトは延びてしまっているので、APEのクロモリ製を使用、当然ヘッドナットもAPE製に交換する。


シリンダー
 シリンダーはスリーブ打ち換え後ボーリング、スリ−ブを打ち換えると必然的に面研することになるが、面研は必要最小限に留めないとセンターのOリング溝が浅くなりオイル漏れの原因となる。当然、内燃機屋さんの精度が要求される。
バルブ
 バルブはボール盤に咥えさせてペーパーでカーボンを除去後鏡面加工、今回はシートカットは行わないので、バルブコンパウンドとタコ棒を使用してすり合わせのみを行う。当たり幅は通常1mm程度とする。


ヘッドの組立て
 バルブスプリングコンプレッサーを使用してバルブ・スプリング・リテーナーを組む、今回はバルブガイドはそのままでバルブステムシールのみ純正新品に交換する。バルブスプリングはカムシャフトに合わせてヨシムラの強化品。
アイドラーギヤー
 ノーマルのアイドラーギヤーは中にゴムダンパーが入っている為、ゴムが痩せてしまって中のベアリングが抜けてしまった。(写真左)クラスフォーエンジニアリング製の一体形強化タイプのアイドラー及びテンショナーギヤに交換。


ヘッドの組み付け
 ヘッドをシリンダーに載せる。ヘッドガスケットはメタルガスケットを使用、エンジンは全部組んでから車体に載せてもよいが、重くなるのである程度組んだ状態で載せてしまう。
カムシャフト
 バルブタイミングを考慮しながらカムシャフトを組み付ける。ハイカムを入れるとカムホルダーのネジ山が上がってしまう場合があるので事前に確認しておく。バルタイの前にタペット調整を行う、ちなみにアウターシムです。


バルブタイミング
 カムシャフトはヨシムラST-2、APE製アジャスタブルカムスプロケットを使用し、バルブタイミングをメーカー指定値に正確に合わせる。ちなみにヨシムラカムはロブセンターと1mmリフト時の両方が併記されている。
スタータークラッチ
 スタータークラッチ及びギヤを純正新品に交換する。これらの部品は新品に交換することにより信頼性が向上する。もし交換しなくて後々トラブルが発生しても、左カバーを外せば容易に交換が可能。


エンジンの塗装
 エンジンの塗装は全バラの状態で行う。下地の処理はサンドブラストを使用するので、組む前に高圧洗浄機でオイルラインの洗浄を行う。塗装釜は非常に高温になる為、シリンダースリーブが浮いてしまう場合があるので組む前に確認が必要。
キャブセッティング
 仕様の変わらないオーバーホールでもキャブセッティングは必要です。仕様が同じでもオーバーホールにより充填効率が上がる為、セッティングが変わる可能性があります。オーバーホールしたのに今一調子が悪い場合はセッティングの見直しを。



ダイノマシンによるセッティング及び計測です。
 パワーフィルター仕様ながら最高出力124.4 ps / 9,200rpm、最大トルクは11.3kg-m / 6,000 rpmを記録しています。ノーマルのカタログデータは最高出力93 ps / 8,000 rpm、最大トルク9.1 kg-m / 6,500 rpmですが、ほとんどの車両が当時の状態を維持出来ていないことを考慮すると、2倍近くのパワーアップと考えて良いと思います。データー的にもノーマルのネイキッド系現行車両と互角以上のパワーが実現されており、日常に使用するには十分な性能を有していると言えるでしょう。また、最高出力や最大トルク値だけでなくパワーカーブも谷の無いフラットな形状なのがお解り頂けると思います。これは現行車両だと明らかに表れるのですが、マフラーの構造によるものが大きな要因になっているようです。


●まとめ(エンジン編)
 MKUのエンジンをベースに一般的なチューニングを紹介しましたが、Z系エンジンは造られてから20年以上経っており、チューニング以前に修正等を施さなければならない場合も少なくありません。また程度も個体差があり、エンジンを開けてみないと正確なメニューが決められないのが現状です。全てがそうとは限りませんが、ショップの見積と請求に大きな差がある場合はそのような事情が考えられます。このようなギャップを埋める為には、ショップと話し合いながら納得した上で作業を進めることが必要です。また予算が無いからといって、必要なところにはお金をかけないと壊れて2度手間になり、余計にお金がかかってしまったり効果がほとんど無いなんて場合があります。だからといって完璧なものを追求しすぎると予算的にも限度が無くなってしまうので、ある程度のラインで妥協することも必要でしょう。現行車と比べれば確かにパワーが無いかもしれませんが、Zエンジンならではの良さがあるのも事実であり、この貴重な存在を長く維持していく為には、パワーは程々にして耐久性を重視したチューニングがベターではないでしょうか。







チューニング(エンジン編)
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